理論創薬研究所の金子信人です。
今回はヘテロ環構造のバイオアイソスター(生物学的等価体)を探索するソフトウェアを紹介します。
参考論文
The Heterocycle Isostere Explorer: A Computational Tool for the Discovery of Novel Aromatic Heterocyclic Isosteres
(Matthew T. O. Holland, Víctor Sebastián-Pérez, Anthony R. Bradley, Fernanda Duarte, Paul E. Brenna, Journal of Medicinal Chemistry, 2026, 69, 4, 4408–4423.)
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.5c03118
バイオアイソスターは生体環境において同等の働きをする官能基のことで、主に立体的・電子的に類似したものを指します。例えばベンゼン環のバイオアイソスターとしてはビシクロ[1,1,1]ペンタンやビシクロ[2,2,2]オクタンなどが挙げられます。これらは立体的にはベンゼンと同等の体積を有し、疎水性官能基として機能する一方で、π電子を持たないためπ-π相互作用の観点からは異なる官能基として認識されます。バイオアイソスターの利点はこの差異にあり、創薬ターゲットとの相互作用では同等の働きを担うことで活性を保持しつつ、オフターゲットとの相互作用においては特性を変化させることで毒性の低減などに繋げられることから、近年の創薬研究において広く用いられています。今回紹介するHeterocycle Isostere Explorerは独自のデータセットから入力されたヘテロ環骨格に対し、形状と電子状態の近いアイソスターを探索するというプログラムです。

動作環境
Intel Core i7-1265U
Windows 11 Pro
conda 26.1.0
Heterocycle Isostere Explorerのインストール
GitHubからリポジトリをクローンし、Python仮想環境を作成します。
その後、Heterocycle Isostere Explorer(HCIE)をインストールすれば準備完了です。
$ git clone https://github.com/BrennanGroup/HCIE.git
$ cd HCIE
$ conda env create -f environment.yml
$ conda activate hcie_env
$ pip install .
environment.ymlにある関連パッケージがインストールされ、本環境ではhcie 0.1.0がインストールされました。
HCIEによるヘテロ環バイオアイソスターの探索
GitHubにある使用例をもとにPythonの対話モードで実行してみましょう。
分子情報はSMARTS形式で入力し、置換基に相当する部位を[R]もしくは[*]で記載します。
>>> from hcie import DatabaseSearch
>>> search = DatabaseSearch('[R]c1ccccn1', name='2-pyridine')
>>> search.search()
Searching for [*]c1ccccn1
Aligning to all database molecules
Search completed in 1660.77 seconds
Search completedと表記されたら完了です。本環境では28分ほどかかりました。
計算結果はname_hcie_resultsというフォルダに格納されます。今回はname=’2-pyridine’と指定しているので2-pyridine_hcie_resultsが作成されていました。フォルダ内にはマッチした分子の構造情報のsdf、分子構造の画像のpng、および各種プロパティの記載されたcsvが格納されています。例として入力した2-ピリジンのアイソスターは以下のようなものが記載されました。

ピロールやイミダゾールなどの広く使われている官能基から、あまり馴染みのないヘテロ環構造まで網羅的に検索されています。またcsvにはelectrostatic surface potential (ESP) ScoreとShape Scoreのほか分子量・clogP・TPSA(トポロジカル極性表面積)などの差も計算されています。
同様に二置換体ヘテロ環についても実行してみましょう。例としてセロトニンの部分骨格である3,5-置換インドールを入力してみます。
>>> search = DatabaseSearch('[R]c1ccc2[nH]cc([R])c2c1', name='3,5-indole')
>>> search.search()
Searching for [*]c1ccc2[nH]cc([*])c2c1
Aligning to 21242 vector matches
Search completed in 92.0 seconds
二置換体ではデータベースの検索範囲の違いからか非常に早く計算が終了しました。結果としては以下のような分子がヒットしました。

こちらもピリドピリジンやベンゾフランなどのよく知られたものから、見慣れない6-6縮環型骨格まで種々のものが提案されました。
おわりに
HCIEは現在のところ1置換および2置換のヘテロ環構造をサポートしています。生物学的等価体は前述のように薬剤プロパティの改善に使われるほか、創薬研究では特許戦略にも活用されています。近年ではEnamine社がバイオアイソスターを目的とした様々なビルディングブロックの開発・販売を行っています。こういったソフトウェアと合わせて創薬研究が加速することで多くの新薬が開発されるようになるといいですね。
前回記事
SMARTS-RXによる反応性解析のための官能基マッピング
https://www.insilico.jp/blog/2026/02/03/smarts-rx/
最後に
今回で私の担当するこの論文紹介ブログは最終回となります。約一年と短い期間でしたが多くの方に読んでいただけましたようでとても励みになりました。皆様の研究活動の一助になれましたら幸いです。
引き続き研究者として活動は続けていく予定ですので、どこかでお会いできましたら声をかけていただけますと大変嬉しく思います。どうもありがとうございました。
Category: AI創薬関連